My Favorite 塔6月号

作品1、作品2、若葉集から。

<GOLD Favorite>
逝く人のかたえに重ねる飲食の現し世にして茶碗の音す  川野久子
活力の生まれ自らを励ますとふ赤を勧めるあんたが嫌ひ  助野貴美子
透きとおるゴミの袋の内あらわ生きるは斯くも煩雑なりき  新倉由美子

<SILVER Favorite>
マスクして煩はしき人を遠ざける楽しさにをり会議に出で来て  上田善朗
赤ん坊は泣くものなので赤ん坊が泣いてもじろじろ見ないでください  荒井直子
男性歌人の歌集の中の子供らはいともやすやす育ちてゆきぬ  川本千栄
わが腕と妻の腕とは絡まって取り出されたり洗濯槽より  松村正直
たくさんの手首を拾い集めては捨つる夢みつ汗にまみれて  沼尾莉生
勝ち誇る顔にて紫煙を吹き掛ける将棋敵が朝早く来る  相沢大也
本当は困っていたのか背もたれに君が掛けおくジャケットずれて  荻原伸
ドアにゆびつめて抜けぬと泣いてゐた娘は三十六 まだ泣いてゐる  小松道子


<BRONZE Favorite>
牛よりも牛乳飲んでいる俺は今のところは人間である  相原かろ
顔面の皺は左右に打ち寄せてこのひとはこんなにかわいくなった  梶原さい子
まんぼうの夢を見ていた現身を湯に浮かべれば狭き海なり  紺屋四郎
褒めもせず貶しもせずにほおーほおーと我の一首を母は聞くなり  中野敏子
見上げゐる遺影にいつものこゑを聞く「私死んだか」博子さん嗚呼  西尾憲治
三日月が水たまりの中ふるへるを子が来て指の先につつきぬ  久岡貴子
見つめられ一緒のお墓に入ろうかと語れば犬は思案に入りぬ  樺澤ミワ
祈るときことば浮きたる心地してふと口つぐむことありて悲し  林一英
便箋の中程からは前文を繰り返すなり老母の手紙は  東郷悦子
病名をとうとう知りてしまいたる人を見舞えり黄のチューリップ  林田幸子
それぞれに特技はありて堅物の吾が同僚は折り紙を折る  八鍬友広
大福にひそむ苺が舌刺すに似たりあなたの「気にしないで」は  保村たまき
自在とはいかなる範囲せいいっぱい伸ばした指の先がつめたい  秋津霧
なまなまと流れて潤む鶏卵の殻を溶かれしのちのたゆたひ  澄田広枝
早朝にポストに入れし封筒はもうないだろうこの町の夜  中村ヨネ子
俺つて危篤なの?とふ弟の最後の声が耳底にあり  太田由美子
少年の背中に翼たたまれてそのまま退化してゆく あわれ  小川和恵
眠る父のどこにも強きものはなくわたしは何から逃げたのだろう  山梨寿子
父に梅母に桜の別れの日死も慈しみと思いていたり  飯塚律子
変はりなし変はりなしといふうちに年寄り顔になつてしまへり  山本大二郎
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by 31life | 2007-06-18 22:51 | My Favorite  

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