塔 8月号

鍋の中灰汁の渦を眺めゐるこれが一生続くのである

炊飯器開ければ御飯の真ん中に三角ブロックぶつさしてあり

股間より覗き込みゐるみどりごに逆さの我はほほゑみかへす

約束の指輪はいつまで輝くか紅さしゆびを空にかざせり

みどりごが目覚むるほどの落雷があり五秒後に葉に雨落つる音   飯村みすず
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# by 31life | 2007-08-15 14:46 | 掲載短歌  

My Favorite 塔7月号

作品1、作品2、若葉集より。

<GOLD Favorite>
両指をそつと組み合はするごとく祈れわたしの貧しきあばら  梶原さい子
靖国も愛国も知らずみづみづと花ひらきたり基準のさくら  豊島ゆきこ
そのうへの苺かならず甘くあれ燭をふき消すをさな子のため  久保茂樹

<SILVER Favorite>
星空のやうでありたし泣き寝せる子を抱きゐるわが懐の  千名民時
新聞を綺麗にたたむこの人は丁寧ならむ人捨つる日も  秋場葉子
コーヒーに澱んだシュガーは戦争で潤う利益のごとくに甘き  北辻千展
ふり向けば父母はまだ手を振りておりまっすぐなまっすぐな道なり  邑岡多満恵
幽霊が辺りを漂うビルの群疲れた女が昼食を食む  油野勤
検査値の結果の良くて病院へ病人顔を置いて帰りぬ  西村清子
春深みカップに注ぐ牛乳も彫刻のごとき陰影を持つ  本田光湖
カスタネットたたきたくなる春の夕父母居らず猫と暮らして  田中律子

<BRONZE Favorite>
夜と昼を逆さまに生きて青年の未来に咲かす花のいろ何  かざまきみこ
妻を亡くしし人十日経て出でて来ぬ許されし休暇は十日であれば  荒井直子
子を思う親の気持ちはそのむかし目玉おやじを生みにけるかも  松村正直
豆電球の首のあたりに溶接のあとあり首は大事なところ  深尾和彦
本名というも一つの記号にて診察券を揃えて仕舞う  川本千栄
さりげなく眼鏡外してレンズ拭く詰まらぬ話聞かされていて  山本勉
鳴り止みし電話の音をそこここに浮かべてゆつくり暮れてゆく部屋  筑井悦子
死ぬ前にわれの後ろに誰ゐると父は言ひしか頭持ち上げ  北神照美
気に入ったヤカン一つが見つからぬこだわり捨てれば生きやすかろう  あかり
いらいらと子を打ちたるも愛情とくらい記憶の六畳の闇  数又みはる
携帯はへその緒なりぐらぐらと揺れている子と吾を結べり  吉川敬子
乳くさき雨に湿りし交差点に目瞑りて聞くくわくこうの音を  大河原陽子
小窓開けて逢いたき人を待つてゐる死なねば逢へぬ人は尚さら  大畑敏子
その昔こころ病む人住んでをり「天文学者」と皆に好かれし  古賀公子
ガチヤガチヤと全身装備鳴らしつつ米兵があゆむ果てなきイラク  助野貴美子
人ひとり生きてゆくのに様々な音たてること深夜の水流  芦田美香
庭にみる妻の足跡こんなにも小さかったか そっと掌のばす  明石森太
選ばれし短歌少なき月なれば同じ少なき人の歌読む  鈴木俊春
30を過ぎても母に弁当を作らせる女性と何を話すか  夏目空
側にゐてとどくことなき悲しみに爪を立てをり夏蜜柑むきつつ  安藤純代
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# by 31life | 2007-07-18 21:17 | My Favorite  

塔 7月号

<若葉集>入会一年目の会員欄。

出勤前テレビの上に眠りゐる猫のしつぽで天気が見えぬ   飯村みすず

赤門の宣伝カーの走り過ぐ牛の鳴き声BGMに

殺人者彷徨ふ街にわれと子をおいて遊びに行かうといふの

寝室に夫とをさなご眠りをり咲かせるごとく同じ口して

<花山多佳子評>
出勤前テレビの上に眠りゐる猫のしつぽで天気が見えぬ 

猫はテレビの上が大好き。画面にしっぽを垂らすとは。この時間帯と「天気が見えぬ」がいかにもコミカルで、笑いを誘う。
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# by 31life | 2007-07-15 23:31 | 掲載短歌  

故郷

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ひさかたの故郷なれば街並が水面のごとくぼんやりとせり
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# by 31life | 2007-07-02 14:28 | 短歌写真  

短歌7月号

秀逸(伊藤一彦選)

純粋に澄む青空にみどりごの落書きのごと白線ひとつ

佳作(蒔田さくら子選)

マゼンタに染む夕焼けを突き抜けて電車は夜の住宅街へ
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# by 31life | 2007-06-25 22:27 | 掲載短歌  

短歌研究7月号

佳作(高野公彦選)

ひさかたの故郷なれば街並が水面のごとくぼんやりとせり

雪だるま作りし後のかじかんだ手を思い出す雪なき冬に
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# by 31life | 2007-06-20 22:25 | 掲載短歌  

My Favorite 塔6月号

作品1、作品2、若葉集から。

<GOLD Favorite>
逝く人のかたえに重ねる飲食の現し世にして茶碗の音す  川野久子
活力の生まれ自らを励ますとふ赤を勧めるあんたが嫌ひ  助野貴美子
透きとおるゴミの袋の内あらわ生きるは斯くも煩雑なりき  新倉由美子

<SILVER Favorite>
マスクして煩はしき人を遠ざける楽しさにをり会議に出で来て  上田善朗
赤ん坊は泣くものなので赤ん坊が泣いてもじろじろ見ないでください  荒井直子
男性歌人の歌集の中の子供らはいともやすやす育ちてゆきぬ  川本千栄
わが腕と妻の腕とは絡まって取り出されたり洗濯槽より  松村正直
たくさんの手首を拾い集めては捨つる夢みつ汗にまみれて  沼尾莉生
勝ち誇る顔にて紫煙を吹き掛ける将棋敵が朝早く来る  相沢大也
本当は困っていたのか背もたれに君が掛けおくジャケットずれて  荻原伸
ドアにゆびつめて抜けぬと泣いてゐた娘は三十六 まだ泣いてゐる  小松道子


<BRONZE Favorite>
牛よりも牛乳飲んでいる俺は今のところは人間である  相原かろ
顔面の皺は左右に打ち寄せてこのひとはこんなにかわいくなった  梶原さい子
まんぼうの夢を見ていた現身を湯に浮かべれば狭き海なり  紺屋四郎
褒めもせず貶しもせずにほおーほおーと我の一首を母は聞くなり  中野敏子
見上げゐる遺影にいつものこゑを聞く「私死んだか」博子さん嗚呼  西尾憲治
三日月が水たまりの中ふるへるを子が来て指の先につつきぬ  久岡貴子
見つめられ一緒のお墓に入ろうかと語れば犬は思案に入りぬ  樺澤ミワ
祈るときことば浮きたる心地してふと口つぐむことありて悲し  林一英
便箋の中程からは前文を繰り返すなり老母の手紙は  東郷悦子
病名をとうとう知りてしまいたる人を見舞えり黄のチューリップ  林田幸子
それぞれに特技はありて堅物の吾が同僚は折り紙を折る  八鍬友広
大福にひそむ苺が舌刺すに似たりあなたの「気にしないで」は  保村たまき
自在とはいかなる範囲せいいっぱい伸ばした指の先がつめたい  秋津霧
なまなまと流れて潤む鶏卵の殻を溶かれしのちのたゆたひ  澄田広枝
早朝にポストに入れし封筒はもうないだろうこの町の夜  中村ヨネ子
俺つて危篤なの?とふ弟の最後の声が耳底にあり  太田由美子
少年の背中に翼たたまれてそのまま退化してゆく あわれ  小川和恵
眠る父のどこにも強きものはなくわたしは何から逃げたのだろう  山梨寿子
父に梅母に桜の別れの日死も慈しみと思いていたり  飯塚律子
変はりなし変はりなしといふうちに年寄り顔になつてしまへり  山本大二郎
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# by 31life | 2007-06-18 22:51 | My Favorite  

塔 6月号

<若葉集>入会1年目の会員欄

ためらいし心をよそに滑り台滑るがごとく盛岡に着く

二人死に二人出て行き三人になりし屋敷は薄暗かりき

幼かりし写真のわれと向かい合い夢破れしと謝りにけり

味噌汁の香りと包丁リズミカル母はますます猫背になりき

おしめ替え柔い飯を炊く母と呆けた祖母に血脈はなし

リビングのシーリングライト切れたるは日常にして私もふれず

玄関に祖母の折鶴佇めり手の器用さは受け継がれている
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# by 31life | 2007-06-15 22:19 | 掲載短歌  

夕焼け

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マゼンタに染む夕焼けを突き抜けて電車は夜の住宅街へ
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# by 31life | 2007-06-01 14:26 | 短歌写真  

短歌6月号

特選(栗木京子選) 秀逸(田井安曇選)

蛇口あけ疲れて泣きし台所ミルク缶だけそれを見ている

<栗木京子評>
「ミルク缶」は乳児用の粉ミルクの缶であろうか。
生まれて間もない乳児の授乳は数時間おきに行わねばならず、本当に大変である。ミルクを調合しようとして疲労のためつい涙が出てしまった。共感を呼ぶ場面である。「泣きし」とあるがそれ以上に感情をあらわにせず、ミルク缶に視点を絞って状況を描写したことで客観性備わり、説得力のある歌になっている。



佳作(加藤治郎選)

酔い果てて辿り着きしは駐輪場車輪カバーがぬるりと光る
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# by 31life | 2007-05-25 01:06 | 掲載短歌